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「入江 啓彰」の検索結果 [ 2/2 ]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2011年3月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    このたびの東北地方太平洋沖地震による被災者の皆様には、心よりお見舞申し上げます。一刻も早い復興と皆様のご健康を心よりお祈り申し上げます。
    3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震、津波、原発事故の日本経済に与える影響について本格的に答えるのは時期尚早である。しかし、過去の自然 災害や破壊的な事件(先進国の事例では、1995年の阪神淡路大震災、2001年の米国同時多発テロ、2005年ハリケーンカタリナ等)についての歴史的 知識の蓄積は、今回の大地震の起こりうる影響について示唆を与えてくれる。これらの典型的なパターンとしては、発生後1ないし2四半期に大きな影響が発生 し、しかも被害は被災地域に集中することである。ただ国民経済全体のレベルで見ると、経済成長率への影響は目立つものの通常はそう大きくはない場合が多 い。
    しかし、今回、日本経済は短期的にも長期的にも大きなショックを受けることとなった。というのも、地震だけでなく、津波、原発事故も伴っており、影響は複雑であり損失は甚大である。日本経済・関西経済における影響を考える際に、以下のような論点が挙げられる。

    (1) インフラ、家屋、工場等の直接的被害
    (2) 労働力の喪失、工場等の操業停止、電力供給不足による生産の停滞とその影響の波及、パニック行動(風評被害・不要な買い溜め等)による物流の混乱等の間接的影響
    (3) 急激な円高と株安の進行
    (4) 関西経済への影響(関西に求められることを短期的・中長期的に考える)
    (5) 復興時における財政出動の規模と手法

    今回は、レポートの第一弾として、(2)と(4)を中心に検討する。今回の地震で、直接的な経済損失が特に見られるのは岩手県、宮城県、福島県、茨城県 の4県である。4県の県内総生産額(名目)は32.3兆円であり、全国の6.2%を占める。下表では東北4県の各産業のシェアと特化係数を示している。特 化係数は、各県の産業シェアを全国の同産業シェアで除して求められ、産業構造の特徴を他地域と比較することができる。特化係数が1を越えていると全国より シェアが高いことになる(表では1.5以上の産業を網掛けしている)。4県とも農林水産業の係数が高く、宮城県を除く3県では食料品製造業の特化係数も高 い。
    また下表は、特に被害の大きい市町村(以下では被災地域と呼ぶ)での生産規模を推計した結果である。ここでは、被災地域における従業者数の県全体に対す るシェアを算出し、これに各県各産業の生産額を乗じて、これを被害規模として推計した。被災地域の生産規模は総額8兆9,039億円となる。この金額は、 4県GRPの27.6%、全国GDPの1.7%に相当する規模である。これはすべての産業活動が1年間停止した場合に起こりうる被害規模である。先に見た ように、通常は発生後1ないし2四半期に大きな影響が発生するから、実際、その影響は全国GDPを0.5%?0.8%程度削減することになろう。

    震災の地域間への影響としては、地域間産業連関表による分析が有力である。実 際、地域間産業連関表(2005年ベース)によると、関西・東北間の経済取引額は約1.6?1.9兆円である(地域間産業連関表での東北は青森、岩手、宮 城、秋田、山形、福島が含まれる。茨城県は関東に含まれる)。関西経済における東北経済のウェイトおよび東北経済における関西経済のウェイトは1?3%程 度と、依存関係はさほど大きくない。東北における直接的な経済損失が各地域にどのような影響をもたらすか、地域間産業連関表の簡易分析ツールを用いた推計 結果を示す。ここでは簡単のために、茨城県の被害も東北地域に組み入れ、上述した被災地域の生産規模が全て東北地域で失われると考える。具体的には、東北 地域での消費・投資・輸出、および東北以外の地域での消費・投資における東北からの移入分について、それぞれ20%が喪失されると仮定する。なお20% は、東北6県と茨城県の生産額に対する被災地域の生産規模の比率である。
    このとき生産額ベースでは全国で11兆7,200億円(全国生産額の1.2%)、関西で5,854億円(関西生産額の0.4%)の損失、付加価値ベースでは全国で6兆0,198億円(GDPの1.2%)、関西で2,698億円(関西GRPの0.3%)の損失となる。

    以上われわれは、今回の東北地方太平洋沖地震の経済の与える影響を、インフラなどへの直接の被害を推計するというよりも、生産活動が停滞することからの生ずる滅失所得を2つの方法で推計した。直接の被害推計については不確実性が高く、今後の課題とする。
    得られた結論を再掲すると、(1)被災地域の滅失所得の直接推計規模は8.9兆円となる。この金額は、4県GRPの27.6%、全国GDPの1.7%に 相当する規模である。(2)地域間産業連関表を用いた分析では、全国GDPでは6兆円(GDPの1.2%)、関西GRPでは2,698億円(関西GRPの 0.3%)の損失となる。所得が失われる期間が半年としても日本経済(GDP)に与える影響は、0.6%?0.8%程度と推計できよう。
    [稲田義久、入江啓彰]

    日本
    <1-3月期の日本経済は震災の影響もあるが高成長を維持>

    今週の予測では、10-12月期のGDP(2次速報値)とほぼすべての1月のデータが更新されている。日本経済超短期モデルは、1-3月期の実質GDP成 長率を前期比+1.2%、同年率+5.1%と前回に引き続き高い成長率を予測している。また4-6月期については前期比+0.8%、同年率+3.4%と予 測している。
    これら予測についての最大のリスクは、3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震の影響である(暫定的な日本経済や関西経済に与える影響試算については、 今月のトピックスを参照)。3月の月次データには影響が出てくるが、本格的な影響は4-6月期に表れる。現時点では4-6月期はプラス成長を予測している が、データが更新されるにつれて、マイナス成長の可能性は高まってくるであろう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.4%と好調である。1月の消費総合指数は前月比+0.6%、10-12月期平均 比+1.2%と大幅に伸びており、この影響を反映している。実質民間住宅は同+0.3%増加し、実質民間企業設備は同+2.9%増加する。実質民間企業在 庫品は1.481兆円と成長を押し上げている。在庫は情報通信機械、輸送機械、一般機械工業で上昇している。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公 的固定資本形成は同-0.2%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.2%)に対する寄与度は+1.0%ポイントとなる。
    一方、純輸出をみれば、財貨・サービスの実質輸出は同+3.8%増加し、実質輸入も同+3.3%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.2%ポイントとなる。
    主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率+4.5%と予測している。また4-6月期を同+2.9%とみている。この結果、支出サイ ド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が+4.5%、4-6月期が+2.9%と堅調な回復を予測する。
    超短期モデルは予測に関して個人的な恣意性を完全に排除している。東北地方太平洋沖地震のような突発的な影響を予測では捉えることはできない。月次データ にその影響が反映されて初めて予測の変化として実現する。ただ、先行指標であるサーベイデータなどにおける変化を用いて家計消費などのへの影響を推計する こともできる。今後は、超短期予測と併用して予測を行いたい。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフにみるように、支出サイドと所得サイドの平均実質GDP伸び率は上昇トレンドを形成しており、米景気が堅調に拡大していることを示している。支出サ イドにおける実質GDPの伸び率が低いのは米景気拡大に伴い輸入が大きく伸びているためである。GDP以外の実質総需要、国内需要、最終需要でみても同じ ような上昇トレンドが形成されており、3月11日時点でこれらのアグリゲート指標からみた1-3月期の経済成長率は3%?5%と堅調である。
    このような景気拡大にもかかわらず、バーナンキ連銀議長は現在の非常に高い失業率からOutput Gap(需給ギャップ)が大きいと考え、これまでの異常なゼロ金利政策、QE2を継続していくように思われる。実際にそのように考えているいわゆる”ハト 派”の連銀エコノミストが多い。原油価格の高騰に対しても、大きな需給ギャップから、バーナンキ連銀議長はインフレ懸念を示していない。しかし、原油価格 による物価上昇はコストプッシュ型のインフレであり、デマンドプル型ではなく、需給ギャップとはあまり関係ない。バーナンキ連銀議長の言うとおり、連銀の 金融政策が原油価格に直接に影響を与えることはできないが、異常な低金利政策、ドル安がコモディティー価格の上昇に一部寄与していることは確かである。消 費者にとって、コストプッシュ型、デマンドプル型のどちらにせよ、インフレはインフレであり、彼らは物価上昇がおこればインフレ期待を生じさせる。このこ とは3月のミシガン大学の消費者センチメント調査で1年後のインフレ期待が2月の3.4%から4.6%へと大きく上昇したことからも理解できる。連銀のす べきことの一つはいかにインフレ期待の上昇を抑制するかである。3月15日のFOMCミーティングにおいて何らかの出口戦略がとられるべきであろう。
    確かに、需給ギャップの考え方は受け入れやすい。しかし、需給ギャップを計算するための潜在成長率の求め方がいろいろあることを考えれば、需給ギャップの 考え方が現実的かどうかの問題が残る。連銀が需給ギャップ理論に執着して金融政策を決定していけばインフレ抑制に手遅れになるだろう。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年9月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    8月30日に行われた衆議院総選挙で、民主党を中心とする野党勢力が議席の3分の2を確保した。この結果、今後の経済に対する政策アプローチが大きく変 わることになる。今後の民主党の政策運営については、同党のマニフェストを除いて具体的な金額などを盛り込んだ形での発表はまだ行われていない。ここで は、民主党マニフェストの「工程表」から政策運営が経済にもたらす影響を推計しよう。
    表1は、民主党のマニュフェストの工程表をベースに、景気対策支出額を見たものである。マニフェストでは2009年度に対して最終(2013)年度にな るほど支出金額は明確になるが、それ以外の年では一部支出金額の支出状況は不明確である。そのため、2010年度から12年度の金額については、工程表を ベースに実現可能性を考慮して推計した。
    主な項目は、①子ども手当・出産支援 (同1.3(2013年度時点の所要額5.5兆円)、②暫定税率の廃止(同2.5兆円)、③医療・介護の再生(同1.6兆円)、④高速道路の無料化兆 円)、⑤農業の戸別所得補償(同1.0兆円)などである。要するに家計に対する所得補償型政策が中心となっていることがわかる。

    一方、これらの財政支出の財源は、①予算の組み替えによる無駄な歳出の削減(2013年度時点で9.1兆円)、②「埋蔵金」や資産の活用(同5.0兆 円)、③税制見直し(同2.7兆円)によってファイナンスされることになっている(表2参照)。しかし、2010年度からの早急な実施が困難なものもあ る。特に、公共事業のスリム化や税制改革などである。支出財源が確保できない場合は国債発行によって賄われることになる。
    以上のような支出と財源の見通しから財政バランスの見通しをまとめると、2010年度、2011年度は支出が拡大する一方で、財源の手当てが間に合わないため、財政赤字が拡大することになる(表3上段)。
    GDPに与える影響では、純支出額に着目する必要がある。純支出額の計算には、支出である「埋蔵金」や資産の活用はコストがかからないから考慮しない。 したがって、純支出額は支出措置額から歳出削減額(予算の効率化)・増税額(税制改革)を減じた額となる(表3中段)。またGDP成長率には、この純支出 額の年度間増減幅が影響する(表3下段)。この増減幅が拡大する2010年度、2011年度にはGDP成長率が押し上げられることになる。2012年度、 2013年度には、増税や歳出削減が進み、増減幅が縮小するため、GDP成長率を押し下げることになる。

    最後に、この純支出増減幅を基に、関西経済に対する影響を試算しよう(表4)。試算では、GRP成長率に直接寄与する政策として、子ども手当・医療介護 の再生・農業の戸別所得補償・暫定税率の廃止の4つの政策を取り上げて計算した。また工程表の支出額は日本全国を対象とした額であるため、これに関西の世 帯数割合17.1%を乗じて、関西への影響額としている。さらに、関西経済予測モデルの消費関数の長期消費性向0.464を乗じて追加的消費支出金額を計 算している。これを関西のGRP(89.4兆円、2010年度の予測値)と比較する。この結果、2010年度には0.4%程度、2011年度には0.3% 程度のGRP押し上げ効果となる。しかし、2012年度、2013年度には-0.3%、-0.5%とGRPにマイナス効果をもたらすことになる。

    以上、経済効果を示した。より詳細な分析のためには、家計調査報告に基づいた所得階層別の分析が必要となろう。民主党政権が考える内需、特に、家計消費 の刺激を起点とする経済成長シナリオにより、どのような成長パスが実現されるのか、今後の政策運営動向に注視しなければならない。  (稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <7-9月期、内需は久方ぶりにプラス成長に転じるも、持続性に疑問>

    9月11日発表のGDP2次速報値によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期年率+2.3%となり、1次速報値(同+3.7%)から下方修正となった。
    実質GDP成長率下方修正の主要因は、民間企業在庫品増加である。実質民間企業在庫品増加は1次速報値の前期比-2.0%ポイント(寄与度年率ベース) から同-3.1%ポイントへと下方修正された。在庫調整が想像以上に進展していることを確認した。今後は在庫投資の積み上げが期待され、先行きにとっては 悪くない結果である。
    9月14日の予測では、8月の一部のデータと7月のデータがほぼ更新され、また4-6月期のGDP統計2次速報値が追加されている。支出サイドモデル は、7-9月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大し、内需も小幅拡大するため、前期比+0.9%、同年率+3.6%と予測する。
    10-12月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが、内需が横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+1.9%と予測している。この結果、2009暦年の実質GDP成長率は-5.5%となろう。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.5%となる。実質民間住宅は同-0.8%、実質民間企業設備も同-2.1%といずれも マイナスながら小幅の減少にとどまる。7月の工事費予定額(居住用)と資本財出荷指数は前月比ともにプラスになっており、7-9月期の民間住宅や企業設備 が前期比で安定化する可能性が出てきた。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同-1.0%となる。このため、国内需要の実質 GDP成長率(前期比+0.9%)に対する寄与度は+0.3%ポイントとなり、久方ぶりに内需が景気を引き上げる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+5.7%と増加するが、実質輸入は同+1.9%にとどまる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。
    一方、主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+3.6%と予測しており、支出サイドからの予測と一致している。また10-12月期を同+3.4%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、7-9月期が+3.6%、10-12月期が+2.6%となる。
    日本経済は4-6月期以降、内需が小幅ながら緩やかなプラス成長に転じている。しかし、今後は、民主党による補正予算の見直しも含め補正予算の政策効果 が剥落してくるため、経済のプラス成長の持続性には疑問が出ている。2010年度の民主党の消費拡大効果が出る前に一時的にマイナス成長に陥る可能性があ ることを指摘しておく。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフに見るように、8月の雇用統計を更新した時点で超短期モデルは2009年7-9月期の実質GDP成長率を+1.3%と予測している。これは2008年4-6月期以来1年振りのプラス成長である。
    支出サイドから実質GDP成長率が急速に上昇した主な理由の一つには”Cash-For-Clunkers Program” (エコカー購入促進システム)により、自動車購入が増え実質個人消費支出が増えたことが上げられる。超短期モデルは実質耐久財の個人消費支出が2009年 7-9月期に11.9%(前期比年率)伸びると予測し、個人消費支出全体の伸び率を同+2.0%と予測している。エコカー購入促進システムによる購入が自 動車の在庫減になればその分GDP成長率の増加は相殺されるが、新車の生産につながればGDP成長率は高まる。支出サイドからの経済成長率上昇のもう一つ の大きな理由は実質住宅投資が7-9月期に同9.1%伸びると予想されていることによる。これは7月の民間住宅建設支出が2.3%(前月比)と大幅に上昇 したことによる。実質住宅投資の伸び率がプラスに転じるのは2005年10-12月期以来14四半期振りのことである。
    一方、所得サイドからの実質GDP成長率プラス転換の主な理由は2009年4-6月期の統計上の誤差が2,250億ドルと大きくなり、その結果7-9月 期の統計上の誤差も2,280億ドルになると超短期モデルが予測していることである。この統計上の誤差はGDP比率でみると1.6%に相当する。もう一つ の理由は、1-3月期、4-6月期とそれぞれ前期比-14%、同-5%と大きく落ち込んだ賃金・俸給が7-9月期には0%にまで持ち直すと予想されている ことが挙げられる。
    しかし、7-9月期経済のプラス成長の持続性には問題が残る。エコカー購入促進システムが8月24日で終了し、今後の個人消費支出の落ち込みが予想され る。また、住宅市場に回復の兆しが見えたものの今度は商業用不動産市場が悪化していることがある。所得サイドにおいても失業率が8月には9.7%と 1983年以来の高い水準になり、遅行指数とはいいながら労働市場の回復にはまだかなりの時間がかかるとみられ、個人消費支出の鍵をにぎる賃金・俸給の堅 調な伸びが今もって期待できない。このように、米国経済は7-9月期に一旦プラス成長に戻るものの、その持続性には多くの懸念が残る。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年5月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <2009年度補正予算のマクロ経済への効果とその含意: アンケート調査に基づく検討>

    【はじめに】
    関西社会経済研究所(KISER)では、麻生内閣による経済危機対策についてアンケート調査(ウェブベース)を行い、5月13日に速報結果を報告した。一 方、5月20日発表された1-3月期の実質GDP(1次速報値)は前期比年率-15.2%と戦後最大の落ち込みとなった。これをうけて、KISERは26 日に日本経済の四半期見通しを発表する。これまで財政・金融政策の効果をマクロモデルのシミュレーションを通じて分析してきたが、より正確を期すために、 昨年以来、マクロ・ミクロの両アプローチから検討している。今回のアンケート結果のミクロ情報がマクロモデル分析に援用される。本コラムでは、先般発表し たアンケート調査結果を精査し再検討した結果から、その政策効果や含意に焦点を当ててみよう。

    【アンケート結果の精査と政策効果の推計】
    アンケート調査では、経済危機対策(補正予算)のうち、低炭素革命関連、(1)エコカー購入への補助、(2)グリーン家電普及促進、(3)太陽光発電システム購入への補助、(4)住宅などの購入にかかわる贈与税の減免などを取り扱った。
    補正予算(財政政策)の効果により発生する需要の推計は、基本的にはアンケートによる回答率に母集団である世帯数(エコカーは保有台数)を乗じて計算し ている。1,000というサンプルから出来るだけ正確に母集団の行動を推計するため、速報発表後に回答率の精査を行うとともに母集団の選択にも注意を払っ た。さらに、政策に関係なく購入する予定者の割合から潜在的な需要を割り出し、それが業界の最近の販売量と大きく相違しないかチェックも行っている。
    1.エコカー
    今回の精査では、車を持っている人のうち(車歴13年以上90、13年未満631)、今後1年以内の車の購入予定がないと答え、さらに、新車購入の予定 はなかったがこの政策により新車を購入すると答えた人(車歴13年以上3、13年未満16)のみをカウントした。この比率を車歴13年以上、13年未満の それぞれの台数に乗じる。ちなみに、2008年3月末の乗用車登録台数は4,147万台(車歴13年以上817万台13年未満3,330万台)である。

    スクラップ促進策とエコカー減税による追加的な需要創出効果は、合計、111.7万台となる。これに1台あたり200万円(インサイト、プリウスの最も安いランクの価格を参考とする)をかけると、約2兆2,334億円が政策効果となる。
    2.グリーン家電
    現在グリーン家電(テレビ、冷蔵庫、エアコン)のいずれも購入予定はないが、制度が実施されるならエコ家電を購入したいと答えた人の中で、それぞれのエ コ家電を購入すると答えた人のみが今回の政策による追加的購入の該当者とみなしている。全サンプルに対する割合は、テレビは8.5%、エアコンは 6.6%、冷蔵庫は7.0%である。この割合を2009年3月時点の世帯数(労働力調査)に乗じて追加需要を、さらに当該エコ家電の平均単価を乗じて金額 を推計している。エコ家電のうち、テレビとエアコンについては全世帯数を母集団としているが、冷蔵庫については2人以上の一般世帯を母集団としている。

    グリーン家電普及促進策による追加的な需要創出効果は、合計、1,010.4万台となり、約1兆480億円が政策効果となる。
    3.住宅用太陽光発電システム
    2005年国勢調査によると、全世帯4,906万世帯のうち、持家一戸建の世帯は2,539万世帯である。全世帯数は、直近2009年3月時点には、 5,059万世帯になっている。全世帯数の伸び率から、直近の持家一戸建数は2,618万戸と推計できる(2,539×5,059/4906)。この世帯 数が補助金対象になる。補助金対象者のうち、アンケートで太陽光発電システムをぜひ設置したいと答えた人の割合(24/494=4.9%)をかけると、 128.3万戸となる。
    これに実現可能性バイアスを考慮する。一戸建住宅を所有していると答えた人と太陽光発電システム補助金制度を利用したことがある、と答えた人の比率は 5.5%(=25/458)である。これに直近の持家一戸建推計数2,618万戸をかけると、142.9万戸となる。しかし実際には、1997-2005 年度の累積設置戸数は25.3万戸程度で利用実績は小さい(財団法人新エネルギー財団のデータ調べ)。すなわち、17.7%(=25.3/142.9)し か実際には設置されていないことになる。
    これを修正係数とすると、アンケートベースの128.3万戸に17.7%をかけた22.7万戸が新しく太陽光発電設備を設置する戸数になる。結局、250万円/戸×22.7万戸=5,675億円が追加的な需要効果と推計できる。

    最後に、贈与税制度の拡充による住宅投資創出効果をアンケートから推計しようとしたが、質問が正確に理解されていない可能性があり、今回は推計しなかっ た。グリーン家電や乗用車のような耐久消費財については、経済条件が多少変化しても購入意思が実現される可能性は高いが、住宅のような高額な買い物につい ては別物であると判断した。この政策の効果の推計には不確実性が付きまとうためである。

    【アンケート結果の経済政策への含意】
    以上の推計結果は、速報の段階よりはスケールダウンされたが、われわれは経験上確度の高い結果であると考えている。低炭素革命関連の補正予算により、民 間最終消費支出に3兆8,489億円の追加需要が2009年度に発生すると考えられる。2008年度の民間最終消費支出は290.6兆円であるから、民間 最終消費支出を1.3%引き上げることになる。経済全体では0.7%程度の引き上げとなろう。
    もっともこのアンケートは4月時点での経済情勢にもとづく消費者の追加需要を推計していることに注意しなければならない。最近発表されている夏のボーナ スの予測を見れば、前年比20%程度の減少を避けられないようである。大型の耐久消費財(big ticket items)の購入にはボーナスが決定的に重要である。これからは所得制約が強まることがはっきりしているから、ここで示した推計には上方バイアスがか かっている可能性があることを指摘しておこう。
    最後に、低炭素革命関連の補正予算の効果で2009年度に発生する追加需要は2010年度には消滅することを忘れてはいけない。ちょうど消費税引き上げ の駆け込み需要と同じである。その結果、2009年度には民間最終消費支出は成長促進要因となるが、2010年度には0.7%程度の抑制要因に転じるので ある。仮にその部分を世界経済の回復による外需が相殺してくれれば、日本経済は大不況からうまく脱出できることになる。結局、外需頼みの回復といえよう。 景気回復はダブルディップ型になる可能性が高いことを指摘しておこう。 (稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <4-6月期日本経済、楽観は禁物>

    5月20日に発表された1-3月期GDP1次速報値によれば、同期の実質GDPは前期比-4.0%、同年率-15.2%と前期(-14.4%)を上回る 大幅なマイナスとなった。下落率は戦後最悪となり、昨年4-6月期以来4四半期連続のマイナス成長を記録した。この結果、2008年度の成長率は -3.5%となった。実績は直近の超短期モデル予測(支出サイドモデル、主成分分析モデルの平均値:-17.4%)やマーケットコンセンサス予測(ESP フォーキャスト:-15.9%)を小幅下回る結果となった。超短期モデル予測の動態を見れば、2月の月次データが利用可能となった2月末の予測において は、すでに-14%程度の大幅な成長率予測へ下方シフトが起こっている。超短期予測は2ヵ月程度早く大幅落ち込みを予測できたことになる。
    1-3月期の成長率が戦後最大の落ち込み幅となった主要因は、輸出の急激な落ち込みと低調な民間需要(民間最終消費支出と民間企業設備)である。日本の 景気の落ち込み幅は、他の先進国、米国(年率-6.1%)やEU(約年率-10%)のそれを大きく上回っている。これは、輸出に大きく依存した日本経済成 長モデルの脆弱性を引き続き示したことになる。
    ただ、3月には生産や輸出が前月比でプラスに転じたことにより、マーッケトでは4-6月期は前期比でプラス成長になる可能性がささやかれている。
    1-3月期のGDPを更新した今週の支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長率は、内需と純輸出が引き続き縮小するため、前期比-1.9%、同年率-7.5%と予測される。前期よりマイナス幅は縮小するものの依然としてマイナス成長が続くとみている。
    4月の多くのデータが利用可能ではなく、予測モデルでは時系列モデルによる予測値を用いているため、今回のようにほとんどデータが急激な下方トレンドを 示している状況では転換点の予測は後ずれする。4月のデータが利用可能となれば、実質GDP成長率のマイナス幅が縮小することは予想できるが、プラスに転 じるかについては次回の予測を待ってみたい。プラス要因として補正予算の効果が期待できるが、新型インフルエンザ等マイナスの要因もあるからである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    米景気に対して注意深いながらも楽観的な見方が広まってきた。最も良い例は5月5日のバーナンキFRB議長の議会両院経済委員会での証言である。彼は  ”昨年秋以降の急激な景気悪化のペースがかなり緩やかになってきた”とコメントをし、景気が2009年4-6月期において安定化することを示唆した。確 かに、最近の新規失業保険申請件数の増加はピークを打ち、雇用減少の緩和、製造業の平均週労働時間の上昇、NAHB(全米住宅建設業者協会)住宅市場指数 の1月以降の反転している。景気後退の象徴となっていた労働市場・住宅市場のこれ以上の悪化が止まる兆候をみて、マーケットは彼の証言を受け入れている。
    市場エコノミストの4-6月期経済成長率の予測は-0.5%から-1.5%の範囲にある。これは今週の超短期モデルの予測値と近い(前期比年率-1.1%)。
    景気判断するのにトレンドが重要である。ミシガン大学の消費者コンフィデンス指数、特に将来指数は2月の50.5から急速に上昇し始め、6月には 69.0にまでなっている。グラフが示すように、超短期モデル予測も3月6日の予測から4月24日の予測まで、4-6月期実質GDP伸び率の予測値が緩や かな上昇トレンドを示し、米景気の安定化を示していた。しかし、5月1日以降になるとこれまでの緩やかな上昇トレンドが急速に下降トレンドに転換し始め た。超短期モデルの予測が景気の転換点を示すのに少なくとも市場より1ヵ月早いことが理解できる。今後の超短期予測にもよるが、おそらく1ヵ月後には、” 第2四半期における景気安定化”という注意深い楽観的な見方が幾分悲観的な見方に変わる可能性が高い。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年4月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか?>

    関西経済予測のアウトライン:2009-2010年度
    関西社会経済研究所(KISER)は2月22日、10-12月期GDP1次速報値を織り込んだ第77回景気予測を発表した(HP参照)。今回われわれは、日本経済予測と整合的な形で、関西経済についても予測を行った。ベースラインを要約すれば、以下の様である。
    関西の実質GRP成長率は2009年度▲3.2%、2010年度+0.7%と予測する。第77回景気予測では、日本経済の実質GDP成長率について 2009年度▲3.7%、2010年度+1.5%と予測されていることから、関西経済は、日本経済と比較して落ち込み幅は緩やかに留まるが、回復局面では スピード感に欠く、といった予測のストーリーである。
    需要項目の中で、特徴的な予測結果となっているのは企業設備投資である。2009年度▲13.6%、2010年度▲0.8%と予測している。ただし、大阪湾ベイエリア地域での環境関連投資が進めば、上ぶれする可能性があることに注意しておこう。
    関西経済にとっての中国の役割
    また、輸移出については、2009年度▲2.6%、2010年度+1.6%と予測している。関西の輸出においては、アジア、特に中国が大きな役割を担っ ている。ここで、関西における輸出構造を中国を中心に確認しておこう。下図は2008年における関西の輸出相手地域のシェアを示したものである。関西の輸 出16.5兆円のうち、アジアは約10兆円で6割を占めており、特に中国はその3分の1(3.3兆円)を占めている。中国に対する輸出を品目別にみると、 電気機器や原料別製品といった品目の割合が高い(それぞれ32.1%、19.4%)。一方、輸送用機器はあまり輸出されておらず、ウェイトが低い (1.0%)。

    中国の財政刺激策の大きさ
    最近、中国の財政刺激策にスポットライトが当っている。ただし、財政規模4兆元が一人歩きをしている感がある。この規模の財政刺激策が実現した場合、ど の程度の経済拡張効果があるか見てみよう。2008年の名目GDPが30.067兆元であるから、4兆元は13.3%に相当する規模である。仮に乗数(国 民所得の拡大額÷有効需要の増加額)を1.5とした場合、6兆元の追加的な需要となり、名目GDPを約20%引き上げるという計算になる。
    ここで注意が必要である。意外と看過されているのは、この財政支出期間が2年を目処にしており、一部は昨年末から前倒しされていることである。なかには 単年度で4兆元が支出されてその効果を計算していると読める分析もある。それにしても、4兆元が仮にすべて真水として支出された場合、1年間で名目GDP を最大約10%押し上げる効果をもつと考えてよい。
    中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか
    われわれは関西経済の予測とともに、中国経済の実質成長率がベースラインから加速した場合、関西経済に与える効果(中国経済高成長ケース:シミュレー ション1)を計算している。ベースラインでは中国の実質GDP成長率を2009年+6.2%、2010年+8.3%と想定しているが、これが両年にわたっ て8.5%にシフトアップするケースをシミュレーションしている。
    シミュレーション結果によれば、中国経済が政府の目標に近い成長率(ここでは8.5%)を実現できた場合、関西経済の輸出を2009年度0.3%、 2010年度0.42%拡大するにとどまる。金額(2000年実質価格ベース)にして、それぞれ、336億円、479億円である。実質GRPは、2009 年度0.03%、2010年度0.05%の増加にとどまる。金額にしてそれぞれ283億円、411億円である。意外と効果は小さいのである。
    KISERの関西経済モデルでは実質輸出関数が推計されている。所得弾力性は0.864、価格弾力性は-0.651となっている。所得変数としては、中 国、米国、EUの実質GDPを2005年の3ヵ国の輸出シェアで加重平均したものを用いている。中国経済の成長率2.3%ポイントの上昇(6.2%から 8.5%へ)は、関西の実質輸出を0.3%押し上げることになる。
    中国経済に加えて、米国とEUの成長率がベースラインより2%ポイント上昇した場合、関西の実質輸出はベースラインから1.8%拡大することになる(シ ミュレーション2)。これらのシミュレーションが示唆するものは、関西経済にとって確かに中国経済の回復はそれなりの効果を持つが、決して大きくない。大 事なのは世界経済が一致して拡張的な財政・金融政策をとらない限り、大不況から脱出できないのである。16日に中国の1-3月期経済成長率が発表された が、前年同期比+6.1%に減速した。4半期ベースでは統計がさかのぼれる1992年以来の低い伸びにとどまった。この現実からも、中国経済の財政刺激策 の効果に過度の期待をかけないほうが無難である。(稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <先行指標に一部明るさがみられるが1-3月期は前期を上回る2桁のマイナス>

    4月20日の予測では、3月の一部と2月のほぼすべての月次データが更新された。3月のデータで特徴的なのは、一部の先行指標に改善が見られたことであ る。3月の消費者態度指数は3ヵ月連続の前月比プラスを記録し、同月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIも3ヵ月連続で改善した。このように企業や消費 者の心理は2008年12月に底を打ち改善傾向を示しているが、水準は昨年秋口の値に等しく依然として低い。すなわち、前年同月では引き続き低下している が、悪化幅が縮小し始めたのであり、秋口以降の急速な落ち込みが減速しているのである。このように先行きに明るさが見られるものの、現状は非常に厳しいと いえる。
    支出サイドモデル予測によれば、1-3月期の実質GDP成長率は、内需が大幅縮小し純輸出も引き続き縮小するため、前期比-4.7%、同年率 -17.5%と予測される。10-12月期を上回るマイナス成長が予想され、この結果、2008年度の実質GDP成長率は-3.2%となろう。ちなみに4 月14日に発表された4月のESPフォーキャスト調査によれば、1-3月期実質GDP成長率予測のコンセンサスは前期比年率-12.76%となっている。 われわれの超短期予測はコンセンサスから5%ポイント程度低いといえよう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.8%となり、2期連続のマイナス。実質民間住宅は同-8.6%と3期ぶりのマイナス となる。実質民間企業設備は同-12.2%と5期連続のマイナスとなる。実質民間企業在庫品増加は2兆8,400億円となる。実質政府最終消費支出は同 0.4%増加し、実質公的固定資本形成は同0.6%増加する。国内需要の実質GDP成長率(前期比-4.7%)に対する寄与度は-2.8%ポイントとな る。
    財貨・サービスの実質輸出は同22.1%減少し、実質輸入は同11.4%減少にとどまる。このため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-1.9%ポイントとなる。
    4-6月期の実質GDP成長率については、内需は停滞し、純輸出も引き続き縮小するため、前期比-1.5%、同年率-5.7%と予測している。
    一方、主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-16.0%と予測している。また4-6月期を同-9.5%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が-16.7%、4-6月期が-7.6%となる。両モデルの平均で見れば、2009年後半は引き続きマイナス成長となり、当面景気回復の糸口が見つからないようである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    4月29日に2009年1-3月期のGDP速報値が発表される。その2週間前における同期の実質GDP伸び率(前期比年率)に対する市場のコンセンサス は-4%?-5%である。一方、超短期モデルは実質GDP伸び率を、支出サイドから-0.2%、所得サイドから-1.7%、そしてその平均値(最もありえ る値として)を-0.9%と予測している。
    この超短期予測が正しいとすれば、2008年10-12月期(実質GDP成長率:-6.3%)を米国経済の景気の底と見ることができる。実際に、バーナ ンキFRB議長のように、景気をそのようにみるエコノミストもいる。しかし、世界的なリセッションによる大幅な輸出入の減少が2009年1-3月期の数字 上の景気判断を難しくしている。
    名目輸出入に関しては2009年の1月、2月の実績値が既に発表されている。従って、この2ヵ月の平均値を10-12月期の月平均値と比べることができ る。名目財輸出、同サービス輸出、同財輸入、同サービス輸入の減少率は、前期比年率でそれぞれ-45%、-16%、-57%、-17%となる。超短期予測 は時系列モデル(ARIMA)で3月以降を予測している。財とサービスを合わせた名目輸出、同輸入の下落率はそれぞれ-37%、-51%となる。すなわ ち、輸出入が共に3月に減少すると予測している。一方、輸出入価格は季節調整前だが、3月までの実績値がそろっており、前期比年率でそれぞれ-9%、 -24%である。
    その結果、超短期予測は1-3月期の実質輸出、同輸入の下落率を前期比年率でそれぞれ-32%、-51%と予測している。すなわち、世界的なリセッショ ンの結果このような実質輸出入の大幅な減少が生じており、米国では更に実質輸入の落ち込みが実質輸出の落ち込みを大きく超えることから、数値上実質GDP の伸び率が高くなる。実質輸出入がこのようにそれぞれ大幅に減少するとき、純輸出の予測には多くの不確実性が伴う。
    そのため、正しい景気判断をするにはGDPから純輸出を除いた実質国内需要で景気を判断するのが良い。超短期予測は1-3月期の実質国内需要の伸び率を -5.7%と予測しており、これは2008年10-12月期-5.9%とほとんど変化はない。すなわち、1-3月期の実質GDPの伸び率が市場のコンセン サスよりも高くなっても、同期の経済状況は前期と同じように悪かったと判断すべきであり、米国経済の底は2008年10-12月期から更に深くなっている と見るべきである。超短期予測が1-3月期の実質GDPが市場のコンセンサスに近くなるのは、季節調整後の輸入価格と3月の輸入を超短期予測が共に過小評 価している場合である。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]